No.28

最弱の強者

難しい関係性の問題を解決しようとする時、
自分が被害者である立場で思考している可能性が高い。
その立場をとると解決策を見つける事は、ほぼ不可能になる。
なぜなら、相手も自身を被害者だと考えている確率が高いからだ。


双方が被害者。


そうであれば、どちらがホンモノの被害者なのか証明しなければならないだろう。
まずは互いに直接的にか間接的にか主張し合うが、もちろん合意に至るはずもなく、
そうであれば次は第三者に審判を仰ごうとする。
どんなに辛い目にあわされたかや相手によってもたらされた苦悩や苦痛を、
繰り返し何度も時には大げさに同僚やチームメンバーなどに訴え
「え?!マジで?」とか「それはヒドイな」とか「えー、あの人のこと信じてたのにぃ」、
というような承認を得て賛同してくれる仲間を集めて回る。
もちろん相手も同じことをしていると想像できる。
そして仲間が増えるにつれ相手との溝は深まり怒りは増し、
「やっぱり自分の方が正しかった」という確信と自信のようなものが芽生え大きくなっていく。


また、このような状況の時に感じられる独特の幸福感がある。
それは敵対する相手が貶められたり窮地に追い込まれる様子を垣間見たときに湧いてくる。
そしてなにより、相手のミスや失敗によって被った災いは最高の幸福感をもたらす。
なぜならその出来事は、相手はやはり不出来であり、それによって被害を被った自分は、
不幸で完全なる被害者であることの証明となるから。


このようなことは組織にどのような影響を及ぼすのか。


それぞれに賛同するメンバーは、やがてグループとなり組織の中で対立する。
その際大切なのは「アノ人たちのせいで自分たちは大変な目にあっている」、
ということを明らかにし被害者であることを証明することなので、
お互い粗探しをして指摘し合う。

対立するメンバー同士あるいは部署間では当然協力などすることはなく、
仕事のスピードはより遅くなり情報は正しく伝わらず意思疎通ができない。
自分たちが被害者であることを確実にするには、
相手チームのミスによって災いを被ることが一番なので、
失敗するよう仕向けたり重要な情報を隠したりして足を引っ張り合う。

当たり前だが、このようなことが起こっていれば、組織が利益を生み出す事は難しくなる。
なにせ組織メンバーは、利益を出せないようにすることに懸命になっているのだから。


関係性において被害者だと主張することは、
ある意味強者になることかもしれない。被害者、
つまり弱者を選択することで守られるべき権利を取得したことになるから。
しかしそれは不幸の選択をしたということ。
そしてその影響は大きなもので組織全体を疲弊させ、
機能不全に陥れるくらいの力があるということ。

うっかり被害者だと主張している時は立ち止まって考える必要がある。
「もしかすると私に原因があるのかもしれない」と。
そう責任を引き受ける事で、本当の意味での問題解決をする事が可能になる。